MY SWEET JOURNEY

今年の2月に再発された『GOOD EVENING WONDERFUL FIEND』を聴いて以来、坂道を転がり落ちる勢いでTHE WILLARDにとりつかれている。(たとえが間違っている気もするが、気にしてはいけない)
好きになったバンドなんていくつもあるが、それらに今までずうっと感じてきた〝好きなんだけど、何かがもの足りない〟という欠落感を、WILLARDは一気に埋めてしまったのだ。これには我ながら驚いた。
今までロックバンドに私が求め続けてきたもの、ほぼすべてがWILLARDで手に入ってしまったというか。
こんなに何から何まで、私の好きなものだけで構成されちゃっていいのか、と思ってしまうくらい。そのくらいツボに入ってしまったわけである。




で、新譜であります。

My Sweet Journey(DVD付)

My Sweet Journey(DVD付)

9年ぶりのアルバム、ということで、局地的に、ごくごくひそやかに(笑)話題になった1枚。
入手以来、毎日毎日聴いてますが、不思議と飽きない。それどころか、聴けば聴くほどよくなっていく。スルメ。
収録曲数が、今どきたったの10曲という、潔いんだか開き直ってるんだかなアナログ世代っぷりなのだが、その分当然というべきか、捨て曲はいっさいナシ。
この位置には、この曲しかありえない、というくらいの絶妙な曲配置。実に密度が濃い。
テーマが、「ロードムービーサウンドトラック」だったんだそうで、全編バイクモチーフが登場する。TRACK1で真夜中の都市をバイクで出発し、ハイウェイを抜け、夜明けの空を眺め、砂埃の舞う道なき道を走り、パームツリーの林をくぐり、最後に、地平線の彼方に落ちる流れ星を追う…そういうイメージ。
聴いていて、すごく〝風〟を感じる。さわやかだったり、よどんでいたり、熱かったり、つめたかったり。いろいろなんだけど、とにかく〝外の空気〟。
ていうか、聴いてるとホントにバイク乗りたくなってきて困る(苦笑)。バイクとか、まあ車でもいいんだけど、このグルーヴは、ああいうスピード感とシンクロしてるんだろうなあ、というのをひしひしと感じるのだ。
ひょっとしてJUN先生、バイクに乗るときのBGMが欲しくてこのアルバム作ったんじゃないのか、とか勘ぐっちゃう(笑)。




このアルバムが出る前に、メジャー1st&2ndのリイシューが発売されて、その1stアルバムのライナーノーツはJUN先生がご自分で書いてたんですが、その中にすごく印象的な一節があって。

ここに来る間、東名ではパラグライダーで頭上を滑空する連中に「空中はどうよ? さぞ気持ちイイんだろうね? だが、あんたの眼下で古いモーターにしがみついて大地を這ってる俺もかなりハイなんだぜ!」なんて呟き、その後半島に入り広大な太平洋に面した海岸線を走り抜けて、エンジンを止めた瞬間の静寂の中、春らしいひばりの声(!)を聴いてニンマリ。

なんていうのか、アルバム全体にこういうセンスってのを、感じるわけですよ。エンジンを止めた瞬間の静けさにひばりの声を聴いて、思わずニンマリしてしまうという感受性。それが、美しいなあって。
そういうみずみずしい感受性で、見たり聞いたり感じたりしたものが、そのまま曲に反映されてる。だから、すごく明るいし、のびのびしてるし、聴いてて素直に気持ちいい。



基本的にWILLARDって、レコーディングはかなり手作業ちっくにやってると思うんだけど、アレンジの細かいところまで神経が行き届いていて、ヘッドフォンで聴くととても面白い。それまで聴き逃していた音が、突然ひょいと耳に飛び込んできてびっくりすることがある。いいステレオ、いいアンプで鳴らしたくなるんだよな。
アルバムの核は、たぶん〝Tangerin Sky & Tiny Daisy Chain〟。これが中心にあって、そこから世界を広げていったんじゃないかと妄想。
WILLARDクラシックにじゅうぶんなりうる曲だと思う。疾走感があって、耳に残るリフがあって、キャッチーなメロディがあって。少しサイケデリックな匂いもする。
なんだかんだで、この曲が1番好きかもしれない。ついつい一緒になって歌ってしまう、「たいにーで〜じちぇ〜ん♪」って(笑)。
ていうか、〝小さなひな菊の環〟って。ロマンチックだなあ。
他に鼻歌率が高いのは、〝Sweet Bad Journey〟で、あと最近〝Rodeo Kid〟がお気に入り。フィドル大活躍のカントリー風ナンバー。これは、アウトロの大島さんのドラムがすごいのよ。まさに暴れ太鼓。べらぼうにかっこいいです。
前半は比較的キャッチーで、後半になるにつれてだんだんディープになっていく。で、ラストに透明感のある〝Chase The Shooting Star〟。これがまたいい。淡々としてるんだけど、もうそれはそれはロマンの塊みたい。『奇跡は起こるさ 流星の後に』だもんなあ。
少年と少女が、広い草原で肩を寄せ合って、地平線の彼方に沈む流れ星をふたりで眺めているってイメージ。最後に何というか、浄化されていくような感じがする。




そんなわけで、とっても楽しませてもらってます。
ひとつだけ、残念というか悔しいというか、なんだけど、もっと早くに、彼らの操る船に乗り込めていたら、アルバムの出なかった9年間とか、今までの彼らの来た道のりとか、そういうもろもろに思いをはせて、〝MY SWEET BAD JOURNEY〟という言葉の重みを、深く感じ取れたのに、と。
もっと早くに、彼らと共に旅をしたかったもんだ、と。まあ、時間は巻き戻らないからこればっかりは言ってもしょうがないことなんだけど(苦笑)。