dipの音源を、自分内(中略)覚え書いていくシリーズ@その6

まだまだしつこく続きます。ほんとは先月のうちに、ちゃっちゃと終わらせちゃいたかったんだがねえ、こんなキモいシリーズは(沈没)。前回のあらすじはコチラ


feu follet(フ フォレ)

feu follet(フ フォレ)

昨年12月リリースされた最新アルバム。スタジオ録音としては3年ぶり。発売日前日に、いそいそとフラゲしましたよ。カズモトトモミさんのイラストが素敵なジャケット。透明トレイ下のイラストはヤマジ氏直筆かな。ちなみに帯とCDの盤、ブックレットの中身は、目も覚めるようなレモンイエローで、非常にアタマおかしい感じでこれまた素敵(笑)。
えーと、“サイケデリック”という単語が、dipはたぶん枕詞のごとくに毎回くっつけられて語られてるバンドだと思うのですが、で私は個人的に、サイケデリックという言葉に=曲がベラボーに長いという偏見じみたイメージを、長いこと持っておりまして。3分で済む曲を、わざわざ10分もかけてたらったら演奏する、みたいな。これ、若かりしころに読んだ渋谷陽一氏の対談集*1で、某ヤマシタタツロー氏がグレイトフル・デッドとかジェファーソン・エアプレインのことを「3分で済む曲を10分もかけて演奏するバンドは嫌い」と評していたのが*2頭にこびりついて離れなくなってしまったのがどうも原因じゃないかと思われるのですが(笑)*3、まあそういうごくごく個人的な事情により、“サイケデリック”という冠がくっついて回るバンドにとっつきにくさを感じてしまって*4、ずいぶん長いこと手にとってみようという気にならなかったっちゅーのが正直なところです。90年代初めにはフールズメイトなんか毎号読んでて、dip the flagの記事とかちょこちょこ目に入れたりしてて存在自体は知ってたわけだし、そういう記憶があるってことは、なにかしら頭の片隅に引っかかるものを感じてたはずなんですが。
で、確かにそういう、「3分で済む曲を10分かけて演奏する」曲もdipにはある。でも、それと同じくらいに、ポップなメロディも疾走感もあるし、ロックバンドとしてのダイナミズムを、コンパクトに形にした曲もちゃんとある。ギターとベースとドラムという、シンプルな3ピースに、まだまだこれだけやれることたくさんあるんだなあ、とあらためて刮目させられたといいますか、でもってそういう“ロックバンド”としての1番ストレートかつシンプルな面が、このバンドって実はあんまり伝わってこなかったんじゃないのかしら、なんてちょっと思ったわけですこの『feu follet』を聴いて。サイケっちゅー言葉だけが、独り歩きしちゃっててさ。アルバムの裏ジャケットは、これ正式名称何ていうんだ? 使用エフェクターとチューニングを、曲ごとに表にしたやつが載ってるんですが、そういうところからも、“ただのギターバンド”というところに、わりと焦点合わせて作ってるアルバムという気がします。もちろん、景色をさかさまにしたようなねじれ感、目の回るアシッドな感覚も随所ににじみ出てはいるんですけど、あくまでもそれはオマケというか(笑)。ほんとかっこいいアルバムですよ。ロックバンドのギターかくあるべし、という感じの音の鳴り。
これ!といった、突出したキラー・チューンはないので地味と言えば地味だけど、そのかわり1度再生ボタンを押したら途中で絶対停止できない、アルバムトータルでひとつの大きな曲、みたいな。その中での緩急の流れも絶妙。すごく細かいところまで、緻密にこだわって作られたアルバムだと思います。最近のお気に入り曲は“new old church”で、エッシャーの騙し絵ちっくな、ぐにゃぐにゃ曲がったりいきなり天地がひっくり返ったり、それがいつの間にか元のところに戻ってきてるみたいな、そういう感覚が病みつきになる(笑)。“rehtom”はもう最初聴いた時から好きな曲だし、“corbisier”の意味不明なヘンテコ加減も面白いし、“danae”から切れ目なしにタイトル曲の“feu follet”につながる不穏な空気は、毎回鳥肌モノ。


…とまあ大絶賛の勢いなのですが、実はこの後に『TIME ACID NO CRY AIR』を入手いたしまして、そっちを聴いてしまうとどうしても、ヴォーカルが少々…いやね、せっかく今回日本語詞の曲が6曲もあるんだから、あんまりヴォーカルエフェクトかけずに普通に歌えばいいのにとかちょっと思っちゃって(苦笑)。ヴォーカルも、楽器の一部としてアンサンブルに溶け込んでる感じなのですが、個人的にはもすこし声が、楽器と同列に並んでしゃきっと立ってる方が好みなんだよなあ。ヤマジ氏の声も、日本語の詞もとても好きなので、もうちょっとその辺ストレートに出してくれてもいいのになあなんて、『TIME〜』を聴いた後に思ったりした次第。閑話休題以下次号(まだやるか)。

*1:そんなものまでくまなく読みつくしていた、かつてロキノン信者だったワタクシ…

*2:だからニール・ヤングも同様に嫌い、と続きます。『ロックは語れない』新潮社文庫より

*3:だからと言って私は別に達郎ファンでもなんでもないんですけど

*4:そんなわけで、ゆらゆら帝国もちゃんと聴いたことが実はない