Lillies and Remains/Moralist S.S.

なにやら「日本のジョイ・ディヴィジョン!」などといってやたらと某Sヌーザー誌*1が持ち上げてたり、CROSSBEATにめずらしくレビューじゃなくってインタビューが載ってたり、というところからずっと気になってたバンド。S誌はどうでもいいけど、ジョイ・ディヴィジョンの名前を引き合いに出されちゃ眉唾だろうがなんだろうが、とりあえず聴いてみないわけにはいかないだろうよ。なんでも、同志社の、サークルじゃないけど学内で知り合った面子で結成されたらしい。このー、インテリめ!


Moralist S.S.

Moralist S.S.


…えーと、ジョイ・ディヴィジョンは言い過ぎ。
いや、でもこれかっこいいんですよ。むかつくことに(失笑)。なにがむかつくって、S誌かクロスビートかどっちか忘れたけど、インタビュー受けてたフロントマンのKENTっつー子がさーこのCDの4曲目の“Ivan,Knife,Lipcream”という曲について語るのにさーソルジェニーツィン引っ張り出してきたことですよ! 『イワン・デニーソヴィチの一日』かよ! うっわなっまいきー!(笑)私だって私だってね、大学時代『イワン〜』も『ガン病棟』も『収容所群島』も読んだわよどーだまいったか。もう内容忘れましたけどね はっはーこのアルツめ!
閑話休題。そういう、いかにもIQの高い少年以上青年未満が、アタマでっかちにUK直系ニューウェイヴを解釈するとこういう感じになるのかなーといった塩梅の音で、薄暗くてソリッドでスタイリッシュ。で、確かに暗黒だし不穏だしピリピリもしてるんですが、同時になんか、あっけらかんとした陽性の空気が感じられるのが新鮮。『音楽と人』の9mm巻頭特集で、タクローが言ってたことを思い出したよ。今手元にないので正確な引用ができないのですが、つまり、「自分は明るいと思うんですけど、こういう詞が出てくるってことは、やっぱりどっか悩んでるんでしょうね」みたいな。その真逆というか表裏一体というか、暗黒だし悩んでるしキリキリした不穏な気持ちもあるんだけど、ごはんも食べるし夜は寝るし楽しいこともあって、まあそれなりに日々を生きている。そういう感じ。暗い音楽を作るのに、必ずしも作る本人が、四六時中どっぷり病んでる必要はない、というね。
そういうスタンスは、ある種の人間にとってはものすごいカルチャー・ショックだし、目からウロコの衝撃なのに違いない。最近、『新世代バンド』なんて言葉があっちこっちでよく使われてるけど、要はそこが“新しい”といわれる所以なんじゃないのかな。Lilliesがそのくくりに入れられるのかはともかくとして。




Lillies and Remains/Moralist S.S.


とりあえずオフィシャルPV。一応これがリード曲っつーことになるんだろうが、個人的にぶっとんだのが2曲目の“Sigmablade”。これはちょっとレベルの違うかっこよさだったんだが、このライヴ映像、1番いいところで切れちゃうんで上手く伝わるかどうか。気になる方は聴いてみてください、ってこの曲MySpaceにも上がってないんだけど(笑)。



Lillies and Remains/sigmablade


さてここから先はヨタ話なのですが、
職場でメシ食いながらこれ聴いててですね、おおおけっこういいじゃんかっこいいじゃん、はー大学で組んだバンドかーじゃあまだ若いんだね、若いのにこんな20年前のイギリス人みたいな音出せるなんて君たちなかなかやるね!*2と。しかし聴き進むうちに、なんかもうものすごいデジャヴ感が漂ってきたわけですよ。えーと、なんだ、これ私知ってるぞこの感じ。すんごく慣れ親しんだ感じなんですけど。ぶっちゃけアレなんですけど。タ○ソウは全身全霊かけて否定するだろうけどね、アハハ! そこへ上司がやってきました。何聴いてんの、あーこれこれこういうバンドで。へー日本のバンドなんだ、洋楽にしか聴こえないねえ。そんな会話を交わしつつしばし聴き進むうち、9mm仲間であるところの我が上司、ぽつりとこう言いました。


「あのさ、なんかBUCK-TICKっぽくない?」


…あああ上司言っちゃった!(笑) タ○ソウ憤死! 私言うまいと思ってたのに!(失笑)
ぶっちゃけBUCK-TICK史の中でも、『TABOO』〜『悪の華』にかけての似非欧州風お耽美にあっちゃんさんが思いっきりかぶれていた時期*3を、非常に彷彿とさせたわけで。って、おまえはそうやって9mmといい、若手バンドをオノレのV系村の中に引きずり込まんと理解できんのか、と怒られそうなんですが(笑)、えーとこの2バンドの共通点を、無理くり探し出しますと、早い話がバウハウスですね(笑)。かたやバウハウスの傑作2ndアルバム『MASK』収録曲からバンド名をとったというLillies*4、こなたその昔はあっちゃんさんと今井先生の絡みが、ピーター・マーフィーとダニエル・アッシュの再来、と言われていた、『和製バウハウス』BUCK−TICK。今となってはみんな忘却の彼方かもしれんが(笑)、間違いなく兄さん方のルーツのかなりの部分を占めてるバンドなのですな、バウハウスは。ちなみにタ○ソウはバウハウス信者。新作の国内盤ライナーノーツ書いてるのは奴だ。
非常に興味深いのがですね、同じバウハウスという元ネタがあるとしましょう。あくまでもののたとえですよ。Lilliesの皆さんたちの出す音は、元ネタの音との間によぶんなフィルターがあんまり挟まってない、きわめて原本に忠実な音なんですね。バウハウスがどんなバンドであり、どういった音を出していたのかなんて、名前を知った瞬間に検索して調べるなり試聴するなりですぐわかるから、ヘンな誤解を招くことなく、知ったまんま、聴いたまんまの音をじかに出せる。それが要は、“洋楽にしか聴こえない”ということですよね。一方BUCK-TICK兄さん方の音というと、なにしろ四半世紀も昔に群馬のヤンキーどもが衝撃を受け、ロクな情報もないままに自分たちなりの解釈やら誤解やら時には妄想(笑)やらをぶちこみつつ出来上がった、バウハウス“のようなもの”(笑)。同じ牛肉から、極上のステーキとコーラ味のビーフジャーキーが出来るようなものですよ(失笑)。
どっちがよりスマートかといえば前者に決まってるのですが、でもそうやってヘンな誤解や妙ちきりんなフィルター通しまくったあげく、最終的にオリジナルからもんのすごく遠いところに、なんやケッタイな建造物をぶっ建ててしまった感のあるBUCK-TICK兄さんたちって、やっぱり面白いわーというお話でした。なんだい結局言いたかったことはBUCK-TICKマンセーかい。これだからオバヲタは困りますよ。もっともその、誤解やらフィルターを通すという、日本人ならではの洋楽の変換作業って、一世代前の優秀なミュージシャンは兄さん方に限らずみんなやっていたことで、むしろその変換作業がイコール『日本のロック』のオリジナリティ、でもあったと思うのです。だけど、これから世に出てくる若いミュージシャンは、若ければ若いほど、そういう変換作業を必要としなくなるんでしょうな。そうなった時に生まれてくる音楽って、どういうものになるんだろ。今の10代〜20代前半のいわゆる音楽好きの人たちって、R-30の音楽好きとは紀元前・紀元後くらいに、決定的に感覚違うもんなあ。あ、だんだん話が大風呂敷広げすぎて畳みきれなくなってきた。よってこれにて強制終了。

*1:なんか毎号Sヌーザーをくまなくチェックしている気色の悪いファンのようだが。断じてそんなことはない。

*2:ちょっと待て、これは褒め言葉なのか?

*3:そういや、ウチの上司の中でBUCK-TICKのイメージって、この辺で止まってるんだよな…

*4:そこまで深く影響受けたわけじゃない、とKENTくんSかCかどっちかのインタビューで言ってましたが